談話標識
談話標識(だんわひょうしき、英語: Discourse marker)とは、談話の流れや構成を調整する役割を担う語や句のことである。その主な機能は、発話・文レベルではなく、談話(発話の連なり)レベルであるため、談話標識は統語構造に比較的に依存せず、通常は文の真理条件的意味を変化させない。[1] また、談話標識は話者が何をしているかを複数の異なる次元で示す。[2] 談話標識の例としては、「でも」「だって」「てか」などの接続表現や「ええ!」「ああ」「うそ!」などの表出機能をもつ感動詞が挙げられる。[3] 談話標識という用語は、デボラ・シフリンが1987年に著した『Discourse Markers』によって広く知られるようになった。[4]
英語の談話標識
[編集]英語でよく使われる談話標識には、「you know」「actually」「basically」「like」「I mean」「okay」「so」などがあり、副詞(well)や前置詞句(in fact)など様々な品詞に属する。談話標識が自由構文からどのようにして形成されたのかという過程は、文法化に関する研究や文献によって辿ることができる。談話標識を文法化と転用の「共同産物」とみなすことで、その文法的性質とメタテクスト的性質の両方を説明できる。[5]
談話標識とみなされる語や句の中には、従来フィラーや虚辞のように、機能をもたないものと扱われていたものもあった。しかし、現在では話題転換・言い換え・談話の構成・強調・垣根表現・相槌といった様々な分析水準において、その機能性が認められている。
ヤエル・メシュラーは、談話標識を「対人的」「指示的」「構造的」「認知的」の4つの大きなカテゴリに分類した。[6]
- 対人的標識は、話者と聞き手の関係を示すために用いられる。
- 知覚: look, believe me
- 同意: exactly/不同意: I'm not sure
- 驚嘆: wow
- 指示的標識(通常は接続詞)は、発話間の順序・因果関係・等位関係を示すために用いられる。
- 順序: now, then
- 因果関係: because
- 等位関係: and/非等位関係: but
- 構造的標識は、発話時点における会話行動の階層構造を示すために用いられる。この標識によって、話者がどの発言を重要または重要でないと考えているかが示される。
- 構成: first of all
- 導入: so
- 要約: in the end
- 認知的標識は、話者の思考過程を示す。
- 情報処理: uhh
- 気づき: oh!
- 言い換え: I mean
バーバラ・ジョンストンは、談話分析に関する自身の著書の中で、話者が発話の主導権を握るために用いる「so」などの談話標識を、その語の「境界標示的用法」と呼んでいる。この種の談話標識の用法は、独白と対話のどちらの場面でも見られ、重要な役割を果たしている。[2]
他言語での例
[編集]対人的談話標識のもう1つの例として、イディッシュ語の「nu」が挙げられる。これは、現代ヘブライ語や他の言語でも用いられ、多くの場合、苛立ちを示したり、聞き手に行動を促したりするために使われる(cf. ドイツ語の同根語「nun」は「話題として取り上げられている時点の今」を意味する。これに対し、ラテン語の語源的同根語「nunc」は「発話時点の今」を意味する。ラテン語では前者に「iam」、ドイツ語では後者に「jetzt」が用いられる)。[7] フランス語の「à propos」は「滑らかな、あるいはより唐突な談話の転換」を示すために用いられる。[5]
関連項目
[編集]出典
[編集]- ↑ キャロル・リン, モデル、アイーダ・マルティノヴィッチ=ジック『Discourse Across Languages and Cultures』John Benjamins Publishing Company、2004年、117頁。ISBN 9027230781。
- 1 2 ジョンストン, バーバラ『Discourse Analysis』(第3版)ジョン・ワイリー・アンド・サンズ、2018年。ISBN 9781119257714。
- ↑ “談話標識とは?”. 毎日のんびり日本語教師 (2024年11月11日). 2026年7月3日閲覧。
- ↑ シフリン, デボラ『Discourse Markers』ケンブリッジ大学出版局、1987年。ISBN 978-0521357180。
- 1 2 ハイネ, ベルント、カルテンベック, ギュンター、クテヴァ, タニア、龙, 海平『The Rise of Discourse Markers』ケンブリッジ大学出版局、2021年。ISBN 9781108982856。
- ↑ ユッカー, アンドレアス・H、ジッヴ, ヤエル(英語)『Discourse Markers: Descriptions and theory』John Benjamins Publishing、1998年。ISBN 9789027285522。
- ↑ ギラード・ツッカーマン(2009年)。Hybridity versus Revivability: Multiple Causation, Forms and Patterns。Journal of Language Contact, Varia 2: 40–67, 50頁。
参考文献
[編集]- マイ=ブリット・モースゴー。1998年。『The semantic status of discourse markers』。Lingua 104(3–4), 235–260。
- ブラウン, ベンジャミン (2014). “'But Me No Buts': The Theological Debate Between the Hasidim and the Mitnagdim in Light of the Discourse-Markers Theory”. Numen 61 (5–6): 525–551. doi:10.1163/15685276-12341341.
- ブラウン, ベンジャミン (2014). “'Some Say This, Some Say That': Pragmatics and Discourse Markers in Yad Malachi's Interpretation Rules”. Language and Law 3: 1–20.